浅草鷲神社と長国寺は、東京都台東区の、東京メトロ日比谷線の入谷駅より東へ徒歩6分の地に隣接しあう寺社で、明治維新時の神仏分離までは一体であった。当社寺に関する詳細は浅草鷲神社と長国寺の記事を参照。
11月に開催される酉の市は、東京を中心に各地で催される酉の市の中では最も有名で大規模。
酉の市
11月の酉の日に浅草鷲神社で催される酉の市(当社の例大祭)は、東京を中心とした各地で催される酉の市の中で最も有名。
酉の市は隣の長国寺でも同時に開催され、非常に多くの人出がある。
酉の市は、縁起物の飾り熊手を売る市で、この熊手には運や福を掻き集めるなどの意味が込められている。11月は酉の日が2日ある年と3日ある年があるため、酉の市も2回催される年と3回催される年がある(各祭礼日を一ノ酉、ニノ酉、三ノ酉と呼ぶ)。
なお、浅草鷲神社では酉の市が立つ日のみに熊手御守が授与されるほか、長国寺では三ノ酉がある年限定で火除守りが授与される。
浅草鷲神社
一ノ鳥居脇の大熊手は通年安置されている。
酉の市では熊手御守(かっこめ)も頒布されるが、その大型のものが参道上に掲げられる。
拝殿脇の瑞鷲渡殿では、平成25年より鷲舞ひが奉納されている。
長国寺
周辺の路上の露店
浅草鷲神社も長国寺も境内は熊手を売る業者で埋まるため一般の露天商が出店する余地はないが、周辺の道路には多数出店する。
酉の市の歴史
浅草鷲神社では、景行天皇40年(西暦110年)に、日本武尊が東征往路に当社で戦勝を祈願し、帰路の11月の酉の日に社前の松に熊手を掛けて戦勝を祝ったのが酉の市の起源だとする。そのため、酉の市の発祥地だと称している。
ただし実際は、酉の市は18世紀頃に花又村(現・足立区)の花畑大鷲神社で始まったとされる。日本武尊が東征の往路に埼玉県久喜市の鷲宮神社で戦勝を祈願し、帰路に花畑の大鷲神社の地で戦勝を祝った(後に住民がその地に大鷲神社を創建した)という由緒を元に、日本武尊の薨去日だという11月の酉の日に大酉祭が行われている。
また久喜市の鷲宮神社では、酉の市は鷲宮神社で繁盛したが、元禄時代末期に大宮司が禁止したため、江戸に浅草鷲神社を分祀し本家を取られたと、とする伝承もある。
一方、浅草鷲神社の旧別当寺・長国寺の寺伝では、文永2年(1265年)11月の酉の日に顕現した鷲妙見大菩薩(鷲大明神)を明和8年(1771年)に長国寺に勧請したのが浅草鷲神社で、その顕現日に開帳するようになったのが酉の市の起源だとする。
花畑大鷲神社の酉の市は、賭博が横行したのも一因で大いに繁栄したが、この賭博が安永年間(1772-80年)に禁止されると衰退し、代わって吉原を背後に控える浅草鷲神社の酉の市が隆盛した。
花畑大鷲神社の酉の市では武士の参詣が多かったが、浅草鷲神社の酉の市は商人や吉原の遊女などの町人の参詣が多かった。
江戸時代は酉の市は、花畑大鷲神社が一ノ酉・上ノ酉・本酉・奥ノ酉、同じく足立区の勝専寺が二ノ酉・中ノ酉、浅草鷲神社が三ノ酉・下ノ酉・新酉・出店ノ酉とされた。勝専寺は、第4代将軍徳川家綱に下賜された、鷲に乗った釈迦如来の像を本尊とする浄土宗寺院であるが、酉の市は明治26年頃に廃絶した。
当初は酉の市では農家が花畑大鷲神社で熊手、笊、籠、杵、竹箒といった道具や根菜類、粟餅・芋頭などの食物を境内で売っていた。熊手は形が鷲の爪に似ており、また物をかき集める道具であるため、商家では財をつかむ・かき集める、武家では出世の機会を掴むという縁起がかつがれ、飾り熊手へと発展した。酉の市では「かっこめ」という御守も売られるが、これも「掃っ込め」から来ている。
熊手は前年より大きなものを買うが、これは年々店が発展するという縁起を担いだもの。
また、現在では細々と売られているに過ぎないが、頭ノ芋(とうのいも)や切山椒も酉の市の名物である。頭ノ芋はヤツガシラ芋を蒸かして3個ずつ笹竹で串刺したもの(花又村はヤツガシラ芋の産地だった)で、人の上に立つ頭になれるとか子宝に恵まれるとか言われた。また切山椒は短冊形の甘い餅菓子で、江戸時代に日本橋の梅花亭がべったら市の期間中に売り出し、酉の市では幕末から明治初期に売られるようになった。山椒の木は余すところなく利用できる(有益である)との縁起から商われるようになったという。
なお、花畑大鷲神社では宮司家や氏子は鶏肉・鶏卵を食べないという禁忌があったが浅草鷲神社にはない。浅草鷲神社には鶏卵を奉納する崇敬者も多くよく食べていた。また生きた鶏を境内に放ち、餌を与える人も多かったので境内に勝手に住み着き、昭和50年頃までは境内に常に2~3羽いたという。
東京23区で最も有名な酉の市は浅草鷲神社のものであるが、新宿の花園神社の酉の市もそれに次ぐ規模である。そのほか、23区外では府中市の大国魂神社が有名。
酉の市は日本武尊を祭神とする大鳥社・鷲社の祭礼であり、これらを本殿の祭神としない神社では、境内に勧請された大鳥社・鷲社の祭礼として開催するのが一般的である。
また、東京では酉の市は11月開催だが、埼玉県では12月が多い。東京でも、西新井大師や王子神社など12月に熊手を売る市が立つ所もある(ただし、納めの大師、熊手市、といった名で開催されており、酉の市とは名乗っていない)。