浅草寺(東京都台東区)は浅草にある聖観音宗の総本山(戦前は天台宗の別格本山)で、東京でも指折りの名刹で、最も有名な観光スポットの1つでもある。当寺についての詳細は浅草寺の記事を参照。
本尊示現会は浅草寺の創建を記念する行事で、明治になるまでは浅草神社の三社祭と一体となって催されていた。
浅草寺 本尊示現会
本尊示現会は浅草寺の創建を記念する行事である。そして、浅草寺の創建伝承の概略は以下の通りである。
推古天皇即位36年(西暦628年)の3月18日早朝、檜前浜成・竹成の兄弟が現在の隅田川で漁をしていると、網で一体の仏像を引き上げた。その像を土師真中知に見せて相談すると聖観世音菩薩像であることが判明したので、草堂を立てて安置したのが浅草寺の創祀である。
この浅草寺の本尊を引き上げた日を本尊が示現した日として記念し法要を行うのが本尊示現会である。なお、上陸した地は現在の駒形橋辺りで、現在は浅草寺の境外仏堂である駒形堂が立つ。
江戸時代の浅草寺の本尊示現会は、三社権現(浅草神社)の三社祭と一体的に18日に執り行われ、大祭の前夜には神輿を本堂の外陣に安置した。明治の神仏分離令で浅草寺と浅草神社が分離されるのに伴い、本尊示現会は旧来の日程に留まる一方で、三社祭は5月に移行した。しかし平成15年(2003年)以来、浅草神社の宮神輿3基が3月17日夕刻に浅草寺本堂に入り、一晩を過ごして翌18日に神社に戻る「堂上げ」「堂下げ」が復活した。
17日 - 神輿の本堂堂上げ
17日夕刻に、浅草神社の宮神輿3基が浅草寺本堂に堂上げされる。浅草神社は浅草寺本尊となる聖観音像の取得と浅草寺の創建に関わった檜前浜成・竹成と土師真中知の3名を神として祀った神社であり、本尊示現会では宮神輿3基に乗ったこの3柱の神霊が浅草寺の本堂に堂上げされ、そこで聖観音像と対面して一晩を過ごすのである。
- 式次第
- 浅草神社で宮神輿に神霊入れ
- 浅草寺本堂へ宮神輿が出御
- 浅草寺本堂前から宮神輿を堂上げ
- 浅草寺一山式衆読経
夕刻より神職が浅草神社社殿から神輿庫の宮神輿3基へ神霊を遷す儀式が行われる。その後、神職らが社殿から神輿庫へ移動し神霊を神輿に遷し終わるまで境内の灯りは消灯される(この間は写真撮影禁止)。なお、この儀には浅草寺の僧侶も参加する。
神霊を乗せ終わった宮神輿3基は、高張提灯や篝火、松明の灯りの中、浅草神社から浅草寺の本堂前へと、台座に乗せられて移動。
3基の神輿は順次、浅草寺の本堂前から本堂内へと担ぎ上げられる(「堂上げ」)。ここでも高張提灯や篝火、松明の灯りで幻想的な風景が出現する。
神輿3基が本堂内に入ると、神職の祝詞、続いて僧侶らの読経が始まる。ただし、一般人が近寄れるのは階段の下までで中の様子はほとんどうかがえず、そのまま一連の儀式は終了し本堂の扉が閉められる。
18日- 神輿の本堂堂下げ
17日の夕刻から浅草寺本堂内に一泊した浅草神社の宮神輿3基は翌朝、浅草神社に還御する。また浅草寺では法要が催される。びんざさら舞、巫女舞、金龍の舞も奉演される。このほか、この日に限り赤い祈祷札(紅札)が授与される。
- 式次第
- 浅草寺本堂で浅草神社神官祝詞奏上・浅草寺一山式衆読経
- 本堂から宮神輿を堂下げ
- 本堂前でびんざさら舞
- 宮神輿が本堂を一周する庭祭礼渡御
- 浅草寺本堂で本尊示現会法要
- 宮神輿の神輿庫入れ
- 宮神輿から神霊返しの儀
朝、浅草寺本堂で一泊した浅草神社の宮神輿3基を浅草寺の本堂から堂下げする。
堂下げ後、本堂前でびんざさら舞が奉納される。びんざさら舞は田楽の一種で東京都指定無形民俗文化財。
びんざさら舞奉納後、宮神輿は台車に乗せられ、祭礼行列と共に浅草寺本堂を時計回りに1周してから浅草神社の鳥居前に到着。
短い庭祭礼渡御が終わると祭礼行列は浅草神社に宮入り。ただし18日が週末の場合は浅草の町内を練行列してから宮入する(後述)。宮神輿3基はしばらく参道に安置される。
宮神輿は午後遅くに神輿庫に格納され、「神霊返しの儀」で神輿から神霊が神社の本殿に戻されて終了となる。
浅草神社の神楽殿では巫女舞も披露される。
浅草寺では金龍の舞が一日3回披露される。この舞は、浅草寺縁起に「観音示現の時、天から金龍が舞い降り一夜にして千株の松林ができた」とあることにちなみ昭和33年に創作されたもので、18mの金龍を8名が操る。松林を表す松慈童(幼稚園児ら)と観音を表す蓮華珠(金の蓮の蕾)を持つ者1名、それに浅草芸者の屋台が付き添う。
なお、金龍の舞は10月18日の菊供養会でも、規模縮小のうえ奉納される。
18日が週末だった場合の神輿巡行
3月18日が平日の場合は、宮神輿3基の巡行行列は浅草寺本堂からの堂下げ後、本堂を時計回りに一周してそのまま浅草神社に還御する。
しかし18日が土曜か日曜だった場合、神輿の巡行路は大幅に拡大され、本堂を時計回りに一周した後、さらに浅草の町を一周渡御してから浅草神社に還御する。この際、楽人やびんざさら舞らは町内渡御には加わらず(ただしびんざさら舞はどこかでか再合流)、その代わりに囃子屋台が加わる。また、宮神輿は町内も台車に乗せられて渡御する。浅草寺に到着後は、神輿と囃子屋台以外はそのまま浅草神社に戻るが、宮神輿は宝蔵門に留まり、宝蔵門からは担ぎ上げられて宮入する。
18日- 浅草神社 被官稲荷神社例大祭
本尊示現会とは直接的な関係はないが、その開催日の3月18日には、浅草神社境内の被官稲荷神社において例大祭も催され、式典の後、幾つかの芸能が奉納される。この行事に関する詳細は「浅草神社 被官稲荷神社例大祭」の記事を参照。