上野公園(正式には上野恩賜公園)は、江戸時代は将軍家の霊廟があった寛永寺の境内で、明治6年に芝・浅草・深川・飛鳥山と共に日本初の公園に指定された(当園についての詳細は上野公園の記事を参照)。
寛永寺の境内は花見の名所として江戸時代から知られ、上野公園となった現在に至るまで日本で有数の知名度を誇る。東京では靖国神社から千鳥ケ淵にかけての一帯と並んで注目度が高い地域であり、ソメイヨシノが一斉に咲き誇る3月下旬から4月初旬にかけては「うえの桜まつり」が催される。
うえの桜まつり
上野公園の敷地は江戸時代は寛永寺の境内であり、江戸時代の寛永年間(約400年前)、寛永寺を創建した天海僧正が吉野山から桜を移植させて以来の桜の名所である。上野公園には多種多様な桜が約700本植えられており、ソメイヨシノが一斉に咲き誇る3月下旬から4月初旬にかけては「うえの桜まつり」が催される。この期間、夕刻にはボンボリが灯され、昼夜を問わず大勢の花見客が押し寄せる。また期間中、園内では様々なイベントが催される。
「うえの桜まつり」が始まるのは3月中旬からであり、そのころはまだソメイヨシノは咲いていない。ボンボリ約1000個が灯されるようになるのは桜開花宣言(つまりソメイヨシノの開花宣言)が出てからであり、17時~20時の間点灯される。
20時にボンボリが消灯後されると灯りは街灯のみとなり、また少し違った風景が出現する。
清水観音堂はライトアップされる。ただしライトアップは時期を問わず一年を通して行われている。
不忍池弁天堂も通年ライトアップされている。弁天堂の表参道には露天商が出店する。なお、弁天堂から西へ湯島方面に抜ける道にも桜並木がある。
上野東照宮では参道沿いの片側に花見屋台が出店し、参道の反対側にはイスとテーブルが用意される。また何日かは神楽が奏上される。
両大師(輪王寺)でも境内に桜が咲く。
不忍池の弁天堂から湯島方面へ伸びる道にも。
両大師(輪王寺)境内には、ソメイヨシノと同時期にミクルマガエシ(御車返し)という品種の桜も咲く。
噴水広場でイベントが行われるほか、不忍池畔では骨董市も立つ。
染井吉野と小松乙女の原木
日本で近代(特に戦後)に急速に普及し、現在では桜の代名詞のようになっているソメイヨシノ(染井吉野)は、幕末頃にオオシマザクラとエドヒガンをかけ合わせて作られた園芸品種で、江戸の染井村(現在の豊島区駒込あたり)の植木屋が作出したとされている。
近年、千葉大学の学者が、上野公園の小松宮親王像の前に残る桜の老木がソメイヨシノの原木ではないかとの仮説を提唱した(ただし実際に論文を読んでみると、「可能性がなくはない」程度の話であった)。
またコマツオトメ(小松乙女)はエドヒガン系の園芸品種で、原木が上野公園の小松宮親王像の前にあるためそう命名された。このコマツオトメの原木は、ソメイヨシノの原木説がある木の隣にある。
花まつり
4月上旬の桜の盛りの時期、上野公園において、「桜まつり」とは別に、下谷仏教会の主催で「花まつり」も開催される。名前が紛らわしいが、こちらの「花まつり」は桜を愛でるためのものではなく、正式には仏生会や灌仏会などと呼ばれる、釈迦の誕生日(4月8日とされる)を祝う仏教の祭礼であり、明治以降採用された新暦で4月8日がちょうど桜の開花時期と一致することから異称として定着した。
上野公園では毎年、4月上旬に下谷仏教会の主催で上野大仏・パゴダから清水観音堂階段下まで、虚無僧、稚児、楽僧らの練り行列が行われる。
うえの桜まつり以外の時期の桜
上野公園にはソメイヨシノだけでなく数十種類の桜の品種が計約700本植えられており、開花時期も様々である。その中で、並木となっているもの、または特徴のあるものを紹介。
ジュウガツザクラ(十月桜)は4月上旬頃と10月頃の年2回咲く桜。上野公園では清水観音堂の背後に数本ある。写真は12月のもの。このように秋から冬にかけて咲く品種には他にもシキザクラ(四季桜)、コブクザクラ(子福桜)、フユザクラ(冬桜)、ヒマラヤ桜があり、全て東京23区内で見ることができる。
カンヒザクラ(寒緋桜)はヒカンザクラ(緋寒桜)ともいい、台湾や中国南部を原産とする南方系の桜で、東京でも現在ではかなり一般的に見ることができる。上野公園の噴水の脇には並木があり、園内の桜の中ではカンザクラ(寒桜)、カワヅザクラ(河津桜)、オオカンザクラ(大寒桜)に続いて咲く。この写真は3月中旬のもの。
上野白雪枝垂(うえのしらゆきしだれ)は、2022年に品種登録された、白い花の枝垂れのエドヒガン桜。開花時期は染井吉野より少し早い。
江戸時代から秋色桜(しゅうしきざくら)と呼ばれており、現在のものは9代目でヤエベニシダレザクラ。
カンザン(関山)は八重咲きの里桜としては非常にポピュラーなものの一つ。ソメイヨシノの散った後に咲く。上野公園には不忍池畔にカンザンの並木がある。写真は4月中旬のもの。
アマノガワ(天の川)は枝が上方に伸びる、樹形の珍しい桜。清水観音堂の周辺に数本ある。写真は4月中旬のもの。
花が緑色系の桜としてはウコン(鬱金)やギョイコウ(御衣黄)が有名で、これら2品種は都内にも多数植えられている(上野公園にもある)。緑色系の品種にはこのほか、2001年に長野県で発見されたソノサトキザクラ(園里黄桜)や、同時期に理研が重イオンビームを照射して作出したニシナザオウ(仁科蔵王)がある。上野公園にはソノサトキザクラが噴水広場の交番の裏に2本植えられている。写真は4月中旬のもの。